神奈川県立がんセンター 乳腺内分泌外科
山下 年成
神奈川県立がんセンター 乳腺内分泌外科
山下 年成
—より副作用が少なく、有効な治療を求めて―
現在、HER2陽性タイプの転移・再発乳がんの患者さんで転移・再発後に抗がん剤を用いていない方には、トラスツズマブ、ペルツズマブ、タキサン併用療法が標準治療としてガイドラインで勧められています。トラスツズマブとペルツズマブは抗HER2の分子標的薬ですが、併用する抗がん剤のタキサンは、これまでの臨床研究で末梢神経障害(手指等に強いしびれの症状が出て、家事や手仕事などがしづらくなる)等の副作用により6ヶ月を超えて継続することが困難であることがわかっており、患者さんのQOL(生活の質)にとって課題がありました。
これに対し、現在エリブリンは標準治療のタキサンが効かなくなってから使用する薬剤(注:がんは薬剤耐性を身につける性質があり、一つの抗がん剤を使い続けることが難しい病気です)とされていますが、臨床上の経験から、副作用がマイルドだなという印象がありました。しかしながら、タキサンを使用せずにエリブリンを使用する治療はまだ世界でも行われていないうえ、それを試してみて有効性と安全性を証明した研究発表も見当たらないという状況でした。
そこで私は本試験を行う前に、JBCRG-M03という試験で、まずトラスツズマブ・ペルツズマブ・エリブリン併用療法の有効性と安全性を確認する研究を行いました。その試験で、エリブリン併用が、過去に発表されたタキサン併用の研究結果と同程度、またはより有効である可能性を示す結果を得ることができたため、実際本当にそうなのか、このJBCRG-M06(EMERALD)試験でタキサン併用とエリブリン併用を比較する研究を計画することにしたのです。
本試験では患者さんにQOLのアンケート調査を行い、副作用に対する患者さんご自身の感覚をお伝えいただくことも計画に盛り込みました。より副作用が軽く、有効な治療法の開拓が患者さんのためになると考えています。患者さんの声を受けながら、より良い治療開発を行うため、日本中の医療機関の先生方とともに本試験の完遂を目指したいと考えています。