研究を知る

〜臨床研究のSTORY〜

POSITIVE (JBCRG-23)試験

清水 千佳子

国立国際医療研究センター 乳腺腫瘍内科

清水 千佳子

POSITIVE試験に寄せて

 

POSITIVE(Pregnancy Outcome and Safety of Interrupting Therapy for women with endocrine responsive breast cancer)試験は、「がんになっても、子どもを産みたい」、そんな患者さんの声から生まれた研究です。

 

ホルモン陽性乳がんの治療では、がんの増殖を抑えるため女性ホルモンの分泌を止めるホルモン療法を5-10年続けることが推奨されています。例えば25歳や30歳でホルモン陽性の乳がんになった場合、その治療期間中に患者さんが赤ちゃんを持つ機会を逸してしまうことから、治療を一時的に中断して妊活を行うことはできないのか?という声が医学界でも上がりました。

 

これまで研究者の間では、妊娠・出産が乳がんの再発リスクを高めるという明確な根拠は見出されていませんでしたが、妊娠・出産のために標準的なホルモン療法を中断することは、医師にとっても、患者にとっても勇気が必要です。これを国際的な協力のもと検証するため、本試験では世界で20ヶ国ほどの国が参加して、対象の患者さんにとって妊娠・出産・授乳のためにホルモン療法を中断することが安全かどうかを確認しようとしています。

 

もしもこの研究によって、ホルモン療法を中断することによるリスクがそれほど高くないということがわかったり、中断することのできる基準が明確になったりすれば、がん治療と並行して子どもを持つ選択肢を患者さんが安心して選ぶことができるようになる可能性が出てきます。

 

研究の結果を患者さんに還元できるようになるまで、まだ何年もの時間が必要ですが、研究者一同、データを通じて、参加くださっている患者さんのおひとりおひとりの気持ちや体験に思いを寄せながら、妊娠・出産を希望する将来の若い患者さんに役立つデータを作りたいと、心をひとつにして努力しています。

 

POSITIVE試験を進めながら、新たに気づくこと、学ぶことも多く、この研究は、乳がん患者さんのがん・生殖医療を科学的に進めるための重要な推進力となっています。

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